複数のクラウドサービスを組み合わせて利用する「マルチクラウド」は、ベンダーロックインの回避や障害耐性の向上など多くのメリットをもたらす一方で、運用現場には新たな負担も生み出しています。AWS、Microsoft Azure、Google Cloudなど、それぞれ仕様や管理コンソールが異なる環境を横断的に運用するには、従来のシングルクラウド運用とは異なるノウハウが必要です。
「コストが想定以上に膨らんでいる」「セキュリティ設定の統一が難しい」「障害が起きたときにどのクラウドが原因か特定できない」といった悩みを抱える情報システム担当者は少なくありません。本記事では、マルチクラウド運用でよくある課題を整理し、それぞれの具体的な解決策をわかりやすく解説します。
記事のポイント
- マルチクラウド運用で発生しやすい5つの課題を整理
- 統合管理ツールや自動化による負荷軽減策を紹介
- セキュリティガバナンス強化の具体的な進め方を解説
- クラウド横断監視で可視性を高める方法を解説
マルチクラウド運用における課題とは
マルチクラウドは複数のクラウドベンダーのサービスを併用する運用形態であり、それぞれの得意分野を活かせる反面、管理の複雑さが増すという側面があります。まずは現場で頻発する代表的な課題を確認していきましょう。
複数クラウド管理で生じる工数増大
マルチクラウド環境では、AWS・Azure・Google Cloudなど各プラットフォームが独自の管理コンソール、API、CLIツールを提供しています。そのため、担当者はクラウドごとに異なる操作方法や設定画面を習得しなければならず、単純作業であっても対応の手間が倍増しがちです。
例えば、仮想マシンのスペック変更ひとつをとっても、AWSではAmazon EC2の管理画面から操作し、Azureでは仮想マシンブレードから操作するなど、手順がまったく異なります。この結果、以下のような問題が発生しやすくなります。
- 同じ作業でもクラウドごとに手順書を用意する必要がある
- 担当者間で対応できるクラウドに偏りが生じる
- 定型作業の自動化が後回しになりやすい
セキュリティポリシーの統一が困難
クラウドごとにIAM(Identity and Access Management)の仕組みやセキュリティグループの設定方法が異なるため、全社統一のセキュリティポリシーを適用することが技術的に難しいという課題があります。
たとえば、あるクラウドでは多要素認証(MFA)を必須化していても、別のクラウドでは設定が漏れているといったケースも珍しくありません。こうした設定のばらつきは、意図しない権限の付与や、外部からの不正アクセスのリスクを高める要因になります。国際的なセキュリティ標準であるISO/IEC 27001などのフレームワークを参考にしながら、クラウド横断で一貫した基準を設けることが重要です。
コスト可視化と最適化の難しさ
各クラウドベンダーは独自の料金体系と請求ダッシュボードを提供していますが、複数クラウドの利用料金を横断的に比較・集計できる仕組みがなければ、全体のコスト状況を正確に把握することは困難です。
特に以下のようなケースでコストが膨らみやすい傾向があります。
- 使用していないインスタンスやストレージが放置されている
- 各部署が個別にリソースを契約し、全体最適がされていない
- クラウド間のデータ転送費用(アウトバウンド通信料)が想定外に発生している
コストの見える化ができていないと、無駄な支出に気づかないまま予算超過してしまうリスクがあるため、注意が必要です。
人材不足とスキルのばらつき
マルチクラウドを運用するには、それぞれのプラットフォームに精通したエンジニアが必要ですが、複数クラウドすべてに高いスキルを持つ人材は限られており、採用・育成のハードルが高いのが実情です。
その結果、特定の担当者に業務が集中する「属人化」が進みやすく、担当者が異動や退職をした際に運用が滞ってしまうリスクも抱えています。社内でのナレッジ共有や、資格取得支援などの人材育成施策と合わせて、ツールによる標準化を進めることが求められます。
障害発生時の原因切り分けの複雑さ
マルチクラウド環境でシステム障害が発生した場合、どのクラウド、どのサービスに原因があるのかを特定するまでに時間がかかりやすいという課題もあります。
それぞれのクラウドが個別の監視ツールやログ管理システムを持っているため、障害発生時にログを横断的に確認できず、原因調査に多くの工数がかかってしまうケースが多く見られます。特に複数クラウドをまたいだ連携システムでは、障害の影響範囲を正確に把握することが難しく、復旧までの時間(MTTR)が長期化する傾向にあります。
マルチクラウド運用課題を解決する方法
ここまで紹介してきた課題は、いずれも適切なツールの導入や運用ルールの整備によって大きく改善できます。ここからは具体的な解決策を紹介します。
統合管理ツールの導入で一元化
複数クラウドの管理工数を削減する最も効果的な方法が、統合管理ツール(クラウド管理プラットフォーム)の導入です。統合管理ツールを使えば、単一のダッシュボードから複数クラウドのリソース状況を確認・操作できるようになります。
代表的なソリューションとしては、Red Hatが提供するRed Hat CloudFormsのようなクラウド管理基盤や、TerraformなどのInfrastructure as Code(IaC)ツールを活用し、複数クラウドのインフラ構築をコード化して一元管理する方法が挙げられます。
- 操作画面の統一による学習コストの削減
- 複数クラウドのリソース状況を一目で把握できる
- 設定変更履歴を一元管理できるため監査対応もしやすい
自動化による運用負荷の軽減
定型的な運用作業は、可能な限り自動化することで担当者の負荷を大幅に軽減できます。IaCツールやCI/CDパイプラインを活用すれば、インフラ構築からデプロイまでの一連の作業を自動化することが可能です。
例えば、HashiCorpが提供するTerraformを利用すれば、AWS・Azure・Google Cloudといった異なるクラウド環境のインフラ定義を同じ記述方式(HCL)で管理でき、環境差異によるヒューマンエラーを防ぐことができます。
自動化によって得られる主なメリットは以下の通りです。
- 手作業によるミスの削減
- 構成変更のスピードアップ
- 担当者の作業負荷軽減による本来業務への集中
ガバナンス強化とルール整備
セキュリティポリシーを統一するためには、全社共通のクラウドガバナンスルールを策定し、各クラウドに適用していくプロセスが欠かせません。具体的には、アクセス権限の付与基準、パスワードポリシー、監査ログの保管期間などを明文化し、クラウドごとの設定に反映させていきます。
またゼロトラストセキュリティの考え方を取り入れ、社内外を問わずすべてのアクセスを検証する仕組みを構築することも有効です。米国国立標準技術研究所(NIST)が公開しているゼロトラストアーキテクチャに関するガイドラインは、マルチクラウド環境のセキュリティ設計を検討する上で参考になる資料です。
クラウド横断監視で可視性を向上
障害対応の迅速化やコストの可視化には、複数クラウドの状況をまとめて監視できる統合監視ツールの導入が効果的です。ログやメトリクスを一箇所に集約することで、障害発生時の原因切り分けにかかる時間を短縮できます。
代表的なツールとしては、オープンソースの監視ソフトウェアであるPrometheusと可視化ツールのGrafanaを組み合わせる方法や、Datadogのような統合型SaaS監視サービスを利用する方法があります。これらを活用することで、以下のような効果が期待できます。
- 複数クラウドのメトリクスを一元的なダッシュボードで確認
- 異常検知のアラートを一箇所に集約
- コスト状況とパフォーマンス状況を同時に把握
マルチクラウド運用課題への対策まとめ
マルチクラウド運用は、複数のクラウドサービスの強みを活かせる柔軟な選択肢である一方、工数増大、セキュリティ統一の難しさ、コスト管理、人材不足、障害対応の複雑さといった課題が付きまとうことを理解しておく必要があります。
これらの課題は、統合管理ツールの導入や自動化、ガバナンスの整備、横断監視の仕組みづくりによって着実に改善できます。まずは自社の運用状況を棚卸しし、どの課題が最も影響を及ぼしているのかを把握することから始めてみましょう。段階的にツールやルールを整備していくことで、マルチクラウド運用の負担を軽減しながら、その本来のメリットを最大限に引き出すことができます。
記事のまとめ
- マルチクラウドは工数増大やセキュリティ統一の難しさを伴う
- コスト可視化ができないと予算超過のリスクが高まる
- 人材不足は属人化を招きやすいため標準化が重要である
- 障害対応にはクラウド横断のログ管理が欠かせない
- 統合管理ツールの導入で運用を一元化できる
- IaCツールによる自動化でヒューマンエラーを防げる
- ゼロトラストの考え方を取り入れたガバナンス強化が有効である
- 横断監視ツールで障害原因の切り分けを迅速化できる
- まずは自社の運用課題を棚卸しすることが第一歩である
